📌 ピン留め 【2026年8月改定】高額療養費制度はこう変わる——がん患者・家族が知っておくこと

「がん治療費の心強い味方」である高額療養費制度が、2026年8月から段階的に見直されます。 結論:自己負担上限額が最大38%引き上げられます。患者・家族にとっては負担増となる改定です。 「いくら増えるのか」「自分は影響を受けるのか」「何か対策はあるのか」——この記事では、がん患者・家族の視点から、2026年8月の改定を分かりやすく解説します。 制度の基本については先に がん治療の医療費——高額療養費制度を知っておく をご覧ください。 1. なぜ改定されるのか 背景 医療費の増大(高齢化・高額薬剤の登場) 健康保険財政の持続可能性確保 「応能負担」の強化(収入に応じた負担を) 改定の規模 1ヶ月の自己負担上限額を、今より4〜38%引き上げ。 高所得層ほど引き上げ幅が大きい設計。 参考情報源:厚生労働省保険局「高額療養費制度の見直しについて」(令和7年12月25日 第209回社会保障審議会医療保険部会):https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001621844.pdf 2. 改定の全体像——2段階で進む 時期 内容 2026年8月 第1段階:69歳以下の自己負担上限を引き上げ(5区分のまま) 2027年8月 第2段階:所得区分を5区分→12区分に細分化 → 2027年8月までに 計2回の改定が行われます。 3. 第1段階(2026年8月)の具体的な変更 69歳以下の方の月額自己負担限度額の引き上げ: 区分 年収目安 改定前(〜2026年7月) 改定後(2026年8月〜) 引き上げ額 ア 約1,160万円以上 252,600円 + α 約270,300円 + α +17,700円 イ 約770〜1,160万円 167,400円 + α 約179,100円 + α +11,700円 ウ 約370〜770万円 80,100円 + α 約85,800円 + α +5,700円 エ 〜約370万円 57,600円 約61,500円 +3,900円 オ 住民税非課税 35,400円 約36,900円 +1,500円 ※「+ α」は医療費が一定額を超えた分の1%を加算 ...

May 20, 2026 · 2 min

「上がったから売る」は正解か——売り時を決めるのは株価ではなく「目的」

「NISAの含み益がかなり出ている。下がる前に、いったん売っておいた方がいいですか?」 株価が上がった局面で、必ず出てくる質問です。以前の記事で「投資は目的が決まって初めて手段が決まる」という買う側の話を書きましたが、今回はその続編——**売る側(利確)**の話です。 結論から言うと、この質問には株価をいくら眺めても答えが出ません。**売り時を決めるのは、株価ではなく「そのお金の目的」**だからです。 ※特定の銘柄・商品の売買を勧めるものではありません。投資にはリスクがあり、元本は保証されません。最終的な判断はご自身で。 「結構進んだので、降りた方がいいですか?」 お金の学びの場で、こんな例え話を見かけました。 電車に2時間乗って、結構進みました。そろそろ降りた方がいいでしょうか? ——と聞かれたら、誰でもこう聞き返すはずです。「どこに行く予定だったんですか?」 目的地が分からなければ、降りるべきかどうかは誰にも答えられません。投資もまったく同じです。投資は手段であって、電車やバスと同じ「乗り物」です。「結構増えたから売る」は、「結構進んだから降りる」と言っているのと同じで、目的地の確認が抜けています。 「下がる前に売っておきたい」という気持ちの正体は、多くの場合、そのお金が何のためのお金か決まっていない不安です。 医師として、この構図には見覚えがあります 「腫瘍が小さくなってきたので、治療をやめていいですか?」 外来でこう聞かれたら、私たちは治療のゴールを確認します。根治を目指す治療なのか、症状を抑えてQOLを保つ治療なのか——ゴールが違えば、「腫瘍が小さくなったからやめる/続ける」の答えは正反対になります。 途中経過の数字(腫瘍の大きさ・株価)だけでは、やめどきは決められない。ゴールが決めてくれる。——医療も投資も、この構図は同じです。 目的別に整理すると、答えはシンプルになる そのお金の目的 置き場所の考え方 数年以内に使う予定がある(学費・住宅・車など) 通貨(現金・預金)で持つ——支払いの直前に暴落が来ても困らないように 長期的に資産を育てる・維持する 株式(インデックス等)のまま持ち続ける——短期の上下に付き合わない 目的の金額にもう到達した 早めに利確して現金化するのは十分アリ 3行目が今日の主役です。たとえば「子どもの大学資金として500万円」が目標で、高校2年生の時点でもう500万円に到達したなら——残り2年の間に暴落が来るリスクを避けて利確するのは、まったく合理的な判断です。これは「上がったから売る」のではなく、「目的を達成したから降りる」。同じ売却でも、意味がまるで違います。 逆に、老後のための長期資産なら、含み益がいくらあっても目的地はまだ先です。途中下車して、また乗り直すタイミングを探す必要はありません。 「利回りがいいから売る」は、終わりのないゲームの入口 もうひとつ、注意したい売り方があります。「ずいぶん利回りが良かったから、いったん確定させよう」——一見堅実に聞こえますが、売って得た現金は、結局また次の投資先を探すことになります。 つまり「良いタイミングで売って、良いタイミングで買い直す」を繰り返す発想で、これは短期トレーダーの考え方です。プロでも勝ち続けるのが難しい世界に、気づかないうちに足を踏み入れることになります。長期の資産形成でインデックスを積み立ててきた人が、この入口をくぐる必要はありません。 筆者の場合——売り時は「先に」決めてある 筆者はライフプランを作る中で、お金を目的別に分けています。 数年以内に使うお金(教育費など):投資とは分離して、収入と預貯金から 長期のお金:インデックスで積み立てたまま、日々の株価は見ない 取り崩し:将来の生活費として「いつから・何のために」使うかを先に決めてある こうして売り時を「先に」決めておくと、株価が上がっても下がっても、やることが変わりません。「下がる前に売るべき?」という問いが、そもそも発生しなくなるのです。これは意思の強さの問題ではなく、設計の問題でした。 まとめ 「上がったから売る?」への答えは株価にはない。**「何のためのお金か」**が決める 数年以内に使うお金は通貨で、長期のお金は株式のまま——置き場所は目的で決まる 目的の金額に到達したなら、早めの利確は堅実な選択(「達成したから降りる」) 「利回りがいいから売る」は短期トレーダーの入口。長期投資家は付き合わなくていい 売り時は相場を見て探すものではなく、ライフプランの中で先に決めておくもの 腫瘍の大きさだけで治療方針が決められないように、株価だけで売り時は決められません。先にゴールを決める——買うときも、売るときも、順番はいつも同じです。 関連記事 目的が違えば、手段も違う——インデックス投資と高配当株の使い分け ライフプランは「人生の設計図×お金」——医師が実際に4ステップで作ってみた話 最期まで治療を続けることが、幸せとは限らない——「引き算の医療」という考え方 筆者:田舎の県庁所在地に住む医師。外科学会専門医・乳癌学会認定医。現在は乳がんの検診・診断と緩和ケアを専門に担当。医師になって20年。 お金の勉強はリベラルアーツ大学(リベ大)を参考にしています。

July 13, 2026 · 1 min

NISAだけでいい?iDeCoも併用?——分かれ道は「税率」と「出口」

NISAが拡充されて、「もうiDeCoは要らないのでは?」という声をよく聞くようになりました。一方で、「高所得者ほどiDeCoを使わないと損」という正反対の意見もあります。 どちらが正しいのでしょうか。答えは「人による」——なのですが、それで終わっては役に立ちません。この記事では、どこで答えが分かれるのか、その分かれ道を整理します。結論を先に言うと、分かれ道は2つ。**あなたの「税率」と「出口(退職金)」**です。 なお、筆者自身が「12月の限度額引き上げで増額すべきか」を悩んだ経緯は別記事に書きました。今回はその続編として、読者のみなさんが自分で判断するための軸をまとめます。 ※制度の内容は2026年7月時点のものです。税制・年金制度は変わることがあります。個別の判断は最新の公式情報をご確認ください。 まず構造を比べる——2つの制度は「非課税のかかる場所」が違う NISA iDeCo 入口(拠出時) 優遇なし 掛金が全額所得控除(税率分が戻る) 運用中 非課税 非課税 出口(受取時) 非課税 課税(ただし退職所得控除等が使える) 引き出し いつでも可 原則60歳まで不可 NISAは「出口が完全に非課税で、いつでも使える」制度。iDeCoは「入口で税金が戻る代わりに、60歳まで拘束され、出口は控除しだい」の制度です。 つまりiDeCoの損得は、**入口でどれだけ戻るか(=税率)**と、**出口でどれだけ非課税にできるか(=退職所得控除の空き)**で決まります。これが2つの分かれ道です。 分かれ道①:税率——入口で戻る金額が人によって全く違う iDeCoの掛金は全額所得控除なので、戻ってくる税金はその人の税率に比例します。 課税所得の目安 所得税+住民税の税率 月2.3万円(年27.6万円)拠出で戻る額 約200万円 約20% 年約5.5万円 約500万円 約30% 年約8.3万円 約900万円超 約43% 年約11.9万円 約1,800万円超 約50% 年約13.8万円 同じ掛金でも、戻る額には2倍以上の差があります。税率50%の人にとっては、「27.6万円拠出すると13.8万円戻る=実質手出し約14万円で27.6万円を非課税運用に回せる」計算になり、これは入口優遇のないNISAにはない効率です。 逆に税率が低い人は入口メリットが小さいので、「60歳まで引き出せない」という拘束のデメリットの方が相対的に重くなります。税率が低いうちはNISA優先、が素直な順番です。 分かれ道②:出口——退職所得控除は「空いているか」 iDeCoを一時金で受け取るときは退職所得控除が使えます。たとえば勤続38年なら約2,060万円まで税金がかからない大きな枠です。 ポイントは、この枠を勤務先の退職金と分け合うことです。 退職金がない・少ない人:控除枠が丸ごと空いている → iDeCoの出口はほぼ非課税にできる=iDeCoが最も輝く属性 退職金がしっかりある人:控除枠は退職金でかなり埋まる → iDeCoの受取に税金がかかりやすい。さらに2026年1月施行の**「10年ルール」**(iDeCo一時金と退職金の間隔が10年未満だと控除が調整される)で、受け取り時期をずらして両方の控除を使う戦略も難しくなりました 自分の勤務先に退職金制度があるか・いくらくらいか——iDeCoを増やす前に確認すべきは、実はここです。 2つの軸で整理すると、自分の位置が見える 出口が空いている(退職金なし・少) 出口が埋まっている(退職金あり) 税率が高い iDeCo併用の効率が最大。NISAと並行して活用を検討 入口は有利だが出口で課税。受け取り方の設計が必要 税率が低い 入口メリット小。まずNISAから NISA優先でシンプルに。iDeCoは無理に使わなくてよい そして、この表の手前に置くべき条件が2つあります。 数年以内に使うお金は、そもそもどちらにも入れない(売り時の記事で書いたとおり、近い支払いは通貨で持つ) 60歳まで触れなくて本当に困らないか——教育費・住宅などの大きな支出が控えている時期は、同じ非課税でも「いつでも出せるNISA」の価値が上がります よくある誤解——iDeCoは「節税」ではなく「課税の繰り延べ」 「iDeCoは節税になる」という表現には注意が必要です。正確には、入口の控除は確実ですが、出口は課税(控除しだい)——つまり課税を将来に繰り延べる制度です。 入口で戻った税金だけを見て満額に飛びつくと、出口で思わぬ税負担に驚くことになります。逆に、「60歳まで引き出せないから」と一律に避けるのも、税率と出口の条件がそろった人にとってはもったいない。どちらの極論も、自分の2軸を確認していない点で同じです。 筆者自身、この2軸に自分の数字を当てはめ直して、一度出した結論を変えました(その経緯はこちら)。制度の優劣ではなく、自分の税率と出口がどうか——結局はそこに戻ってきます。 まとめ NISAとiDeCoは優劣ではなく非課税のかかる場所が違う(NISA=出口・流動性、iDeCo=入口) 分かれ道①税率:高いほどiDeCoの入口メリット大。低いうちはNISA優先 分かれ道②出口:退職所得控除が空いている人(退職金なし・少)ほどiDeCoが活きる。退職金がある人は10年ルールに注意 手前の条件:近い将来使うお金はどちらにも入れない・60歳までの拘束に耐えられるか 「iDeCo不要論」も「iDeCo満額論」も、自分の2軸を見るまでは判断できない 関連記事 iDeCo、12月から限度額アップ——「上限まで上げるべき?」を医師の立場で考える 「上がったから売る」は正解か——売り時を決めるのは株価ではなく「目的」 目的が違えば、手段も違う——インデックス投資と高配当株の使い分け 参考 資産形成の基本(長期・積立・分散)|金融庁 NISA特設ウェブサイト 楽天証券「【2026年12月制度改正】iDeCoの加入可能年齢・拠出限度額が引き上げ」 auのiDeCo「退職所得が増税に?令和7年度税制改正により5年ルールが10年ルールに」 筆者:田舎の県庁所在地に住む医師。外科学会専門医・乳癌学会認定医。現在は乳がんの検診・診断と緩和ケアを専門に担当。医師になって20年。 お金の勉強はリベラルアーツ大学(リベ大)を参考にしています。 ...

July 13, 2026 · 1 min

年金は「繰下げれば得」とは限らない——増額の裏で増える税金と保険料

「年金は繰下げると増える。だから遅くもらうほど得」——最近よく聞く話です。たしかに、受け取り開始を遅らせると年金の額面は確実に増えます。でも、「額面が増えること」と「手取りが増えること」「家計として得をすること」は、実は別の話です。 この記事では、繰下げ受給の仕組みと、あまり語られない3つの注意点——手取りの目減り・加給年金のもらいそびれ・損益分岐点——を整理します。「繰下げはやめておけ」という話ではありません。仕組みを正しく知ったうえで、自分の場合はどうかを考えるための材料です。 1. 繰下げ受給とは——70歳で+42%、75歳で+84% 老齢年金は原則65歳から受け取りますが、申出により66歳以降75歳まで受け取り開始を遅らせることができます。これが繰下げ受給です。 増額率は1か月あたり0.7%。遅らせた月数分だけ一生涯の年金額が増えます。 受け取り開始 増額率 月15万円の人なら 65歳(原則) — 月15.0万円 70歳 +42% 月約21.3万円 75歳 +84% 月約27.6万円 「70歳まで待てば4割増、一生涯」——数字だけ見ると魅力的です。実際、長生きするほど繰下げは有利に働きます。ここまでは、よく紹介されるとおりです。 問題は、この「+42%」が額面の話だということです。 2. 落とし穴①:手取りは額面ほど増えない 公的年金は「雑所得」として課税対象です。そして、税金だけではありません。年金額が増えると、次のものが**連動して増える(または負担区分が上がる)**可能性があります。 所得税・住民税 国民健康保険料(75歳からは後期高齢者医療の保険料) 介護保険料 医療費・介護費の自己負担割合の判定(所得が一定額を超えると、窓口負担が1割→2割→3割と上がる仕組みがあります) 日本年金機構自身が、繰下げの注意点として「医療保険・介護保険の負担や税金に影響する場合がある」ことを挙げています。 つまり、額面が42%増えても、手取りの増え方はそれより小さくなるのが普通です。増えた年金が各種の判定ラインをまたぐと、税・保険料・窓口負担が段階的に増えるためです。どのくらい目減りするかは、その人の年金額・他の所得・住んでいる自治体によって大きく変わります。 「増額率」ではなく「手取りがいくら増えるか」で考える——これが繰下げを検討するときの出発点です。 3. 落とし穴②:加給年金の「もらいそびれ」 もうひとつ、知らないと数百万円規模の差になりうるのが加給年金です。 加給年金とは、ざっくり言うと年金版の家族手当です。厚生年金に20年以上加入した人が65歳になったとき、生計を維持している65歳未満の配偶者(または18歳年度末までの子)がいると、年金に上乗せされます。 項目 内容 主な条件 厚生年金の加入期間20年以上+65歳未満の生計維持配偶者 金額 配偶者の場合、特別加算を含めて年約28万〜42万円(2026年度。生年月日で異なり、現役世代に近いほど上限額) いつまで 配偶者が65歳になるまで ここで重要なのが、日本年金機構の次のルールです。 繰下げ待機期間(年金を受け取っていない期間)中は、加給年金額を受け取ることができません。また、加給年金額は繰下げによる増額の対象になりません。 つまり、老齢厚生年金を繰下げている間、加給年金は支給されず、あとから増えて戻ってくることもありません。純粋な「もらいそびれ」です。 たとえば配偶者が5歳年下の人が、厚生年金を70歳まで繰り下げると、本来5年間受け取れたはずの加給年金——最大で200万円前後——が消えます。配偶者が年下であるほど、この影響は大きくなります。 4. 意外と知られていない:基礎年金と厚生年金は「別々に」繰下げできる では、加給年金をもらいそびれずに繰下げの恩恵も受けたい場合はどうするか。 実は、老齢基礎年金と老齢厚生年金は、別々に繰り下げることができます。これは日本年金機構が明記している公式ルールですが、「繰下げか、しないか」の二択で語られがちで、意外と知られていません。 加給年金は老齢厚生年金に付くもの → 厚生年金は65歳から受け取って加給年金を確保し、基礎年金だけ繰り下げて増やす、という組み合わせが可能 もちろん、逆の組み合わせ(厚生だけ繰下げ)もできますし、そもそも両方65歳から受け取るのも選択肢です。「全部繰下げ」「全部65歳から」だけでなく、部品ごとに設計できると知っておくだけで、選択肢はぐっと広がります。 5. 損益分岐点と「何歳まで生きるか」 繰下げの損得を左右するもうひとつの要素が、受給期間です。 70歳まで繰り下げた場合、65歳から受け取った人に額面の累計で追いつくのは、おおむね**12年後(82歳ごろ)**です。ここまで見てきたとおり手取りベースでは増額の効果が薄まるので、実際の分岐点はもう少し後ろにずれる人が多いはずです。 一方で、厚生労働省の簡易生命表(2024年)によると、65歳時点の平均余命は男性約19.5年(約84.5歳)、女性約24.4年(約89.4歳)。平均的に生きれば分岐点を超える計算になりますが、これはあくまで平均です。 ここで大切なのは、**年金は「損得を競う金融商品」ではなく「長生きという不確実性に備える保険」**だという視点です。何歳まで生きるかは誰にも分かりません。だからこそ、「何歳で死ねば得か」の計算に深入りするより、長生きした場合に家計が破綻しない設計になっているかで考えるほうが、実りがあります。 6. どう考えるか——判断の順番 筆者も自分のライフプラン(作り方はこちらの記事に)を作る中で、年金の受け取り方を検討しました。そのとき役に立った考え方の順番は、こうです。 額面ではなく手取りで考える——「+42%」に飛びつかない 自分の加給年金の有無を確認する——厚生年金20年以上+年下の配偶者がいる人は要チェック。対象なら「厚生は65歳から・基礎だけ繰下げ」も検討 繰下げ中の生活費をどう賄うかを先に決める——繰下げは「その間、年金なしで暮らせる」ことが前提。就労収入や資産で賄えるかをライフプランで確認 正確な金額は自分の数字で——「ねんきんネット」や年金事務所で、自分の見込み額をもとに試算する なお、ネット記事には「繰下げは意味がなかった」「繰下げこそ正解」と、どちらかに振り切った見出しが多く見られます。実際には、有利かどうかは年金額・家族構成・他の所得・健康状態で人ごとに変わります。振り切った結論ほど、自分の条件に当てはめて疑ってみてください。 まとめ 繰下げ受給は1か月0.7%・70歳で+42%・75歳で+84%、額面は確実に増える ただし税金・国民健康保険料・介護保険料・窓口負担の判定が連動するため、手取りは額面ほど増えない 厚生年金の繰下げ中は加給年金(年約28万〜42万円)がもらえず、増額もされない——年下の配偶者がいる人は特に注意 基礎年金と厚生年金は別々に繰り下げられる——「全部か、ゼロか」ではなく部品ごとに設計できる 年金は損得を競う商品ではなく長生きに備える保険。手取り・家族構成・生活費の見通しから、自分の場合を考える 参考情報 ...

July 13, 2026 · 1 min

ライフプランは「人生の設計図×お金」——医師が実際に4ステップで作ってみた話

「将来のお金、なんとなく不安」——収入の多い少ないに関係なく、この感覚を持っている人は多いと思います。実は医師も例外ではありません。筆者自身、家計簿と資産の一覧はつけていたのに、「で、結局このままで大丈夫なの?」という問いには長く答えられずにいました。 その答えを出してくれたのがライフプランです。この記事では、ライフプランとは何か、作るとどんな良いことがあるのか、そして筆者が実際にやってみた4つのステップを紹介します。 1. ライフプランとは——「人生の設計図」を「お金」に落とし込んだもの ライフプランという言葉は保険の営業などでもよく使われますが、中身はシンプルです。 「どう生きたいか」という人生の設計図に、「いつ・いくら必要か」というお金の情報を紐づけたもの——それがライフプランです。 ポイントは2つあります。 人生の価値観が入っていること:どんな仕事をしたいか、どこに住みたいか、子どもの進学、何歳まで働くか、老後はどう暮らしたいか 具体的なお金に落とし込まれていること:「いつか家を買いたい」ではなく「◯歳で◯千万円の家を買う」まで具体化する お金の裏付けのない計画は、残念ながら願望のままで終わりがちです。逆に、金額と時期がセットになった瞬間、計画は「実行できるもの」に変わります。 2. 作るメリットは3つ 筆者が実際に作って感じたメリットは、次の3つに集約されます。 メリット どういうことか 漠然とした不安が消える 「いつ・いくら必要か」が見えると、正体不明だった不安が「対処できる課題」に変わる 罪悪感なくお金を使える 必要額が確保できていると分かれば、旅行や体験にも気持ちよくお金を出せる 見直すたびに人生が良くなる 定期的に見直すとき、わざわざ悪い方向に直す人はいない。見直し=上方修正になる 特に2つ目は想像以上でした。筆者は家族旅行や子どもの体験にお金を使うことを大切にしたいのですが、以前は「使ってしまって大丈夫か」というブレーキが常にかかっていました。ライフプランを作ってからは、「ここまでは使っていい」という線が見えるので、迷いなく使えるようになりました。 3. 実際に作ってみた——4つのステップ ライフプランに決まった書式はありません。ただ、一般的には次の4ステップで作ると迷いません。筆者もこの順番で作りました。 STEP1:どう生きたいかを書き出す まず、お金の計算は一切せずに、やりたいこと・大切にしたいことを紙1枚に書き出します。「◯歳までに家族で北海道へ行く」「◯歳からは働き方を変える」——いわゆる「やりたいことリスト(バケットリスト)」です。 筆者はこれを年代別(40代でやること、50代でやること……)に整理しました。ここが一番楽しい作業です。 STEP2:収支表と資産の一覧を作る 次に、家計の現在地を確認します。 収支表:毎月の収入と支出。家計簿アプリ(マネーフォワードMEなど)を使っていれば、そのまま流用できます 資産と負債の一覧:預金・投資・保険などの資産と、住宅ローンなどの負債を一覧にしたもの ここで「毎月の収支が赤字」「負債が資産を上回っている」ことが分かったら、将来の計画より先に、まず現在地の立て直しが必要というサインです。 STEP3:ライフイベント表を作る STEP1で書き出したやりたいことに、時期と金額をつけて一覧にします。子どもの進学、車の買い替え、家の修繕、記念の旅行——「何歳のときに・何が起きて・いくらかかるか」が1枚で見える表です。 日本FP協会が無料の記入シートを公開しているので、手書き派の方はこれで十分です:便利ツールで家計をチェック(日本FP協会) 筆者の場合、ここで教育費の総額と行きたい旅行の費用を具体的な数字にしました。「思っていたより旅行費を低く見積もっていた」ことに気づけたのも、この表のおかげです。 STEP4:キャッシュフロー表を作る 最後が、毎年の収支・貯蓄残高・ライフイベントを1つの表にまとめたキャッシュフロー表です。「◯年後は進学と車の買い替えが重なって赤字になるが、貯蓄でカバーできる」といった未来の到達予想が見えるようになります。 正直、数字だらけで一番ハードルが高いステップです。ここまでできなくても、STEP3のライフイベント表まで作れば十分に価値があります。毎月の収支が黒字で、資産が増えていて、いつ・いくらの支払いが来るか分かっている——それだけで家計管理としてはかなり上位のレベルです。 筆者はSTEP4まで作ってみて、「◯歳で完全リタイア」は難しいが、働き方を調整すれば十分やっていけることが数字で分かりました。漠然と「早く辞めたい」と思っていた頃より、いまの仕事に向かう気持ちはむしろ軽くなっています。 4. 病気になったときこそ、ライフプランが効く このブログは乳がん・緩和ケアがテーマなので、最後にこの視点を。 がんと診断されると、治療費・仕事・家族の生活と、お金の不安が一気に押し寄せます。そのとき、家計の現在地(STEP2)が把握できている家庭とそうでない家庭では、落ち着きがまったく違う——外来でご家族と話していて、そう感じることがあります。 治療費そのものは高額療養費制度で上限があります(2026年8月からの改定には注意) 一方で、収入の変化や交通費・生活の支出は、家計の全体像が見えていないと判断がぶれます ライフプランは元気なうちに作るものですが、効果を発揮するのは想定外のことが起きたときです。健康なうちの1〜2日の作業が、いざというときの家族の判断力になります。 まとめ ライフプランとは、人生の設計図をお金に落とし込んだもの 作るメリットは「不安の解消」「罪悪感なくお金を使える」「見直すたびに上方修正」の3つ 作り方は4ステップ:①やりたいことを書き出す → ②収支表と資産一覧 → ③ライフイベント表 → ④キャッシュフロー表 STEP3まででも十分。完璧を目指すより、まず1枚書いてみる お金も時間もほとんどかからず、失うものがない割に、得られる安心は大きい——筆者が実際に作ってみた率直な感想です。 筆者:田舎の県庁所在地に住む医師。外科学会専門医・乳癌学会認定医。現在は乳がんの検診・診断と緩和ケアを専門に担当。医師になって20年。 お金の勉強はリベラルアーツ大学(リベ大)を参考にしています。

July 11, 2026 · 1 min

【お金・生活】ダブルケア——介護と子育てが重なるとき、抱え込まないための考え方

**「ダブルケア」**という言葉をご存じでしょうか。子育てと、親の介護が、同じ時期に重なる状態のことです。 晩婚化・晩産化が進み、子どもがまだ手のかかる年齢のうちに、親の介護が始まる——そんな家庭が、確実に増えています。仕事を持ちながらであれば、なおさら大変です。 私は医師として、患者さんのご家族がこの状況に直面する場面を、数多く見てきました。そして、私自身も、家族を支える時期を経験して、痛感したことがあります。それは—— 「全部、自分で抱えよう」とすると、いちばん先に、支える側が倒れる ということです。 この記事では、介護と子育てが重なったときに、抱え込まずに乗り切るための考え方を、医師として、そして一人の家族として整理します。まじめで責任感の強い方ほど、読んでいただけたらと思います。 1. まず、「自分が主治医をやめる」 医療にたずさわる人ほど、そして親思いの人ほど、親のケアまで自分でやろうとしてしまいます。通院の判断も、段取りも、全部自分で。 でも、そこは思い切って、プロと制度に「主治医役」を渡しましょう。 地域包括支援センターに相談する(介護の最初の窓口です) 要介護認定を、早めに申請する ケアマネジャーに、「もう自分だけでは限界です」と正直に伝える 「まだ大丈夫」と粘っているうちに、共倒れになるのが最悪のパターンです。制度は、使うために用意されています。早めに頼るのは、負けでも手抜きでもありません。 2. 「自分にしかできないこと」以外は、仕組みに手放す 次に考えたいのが、**「気合いで回す」のをやめて、「仕組みに置き換える」**ことです。 世の中には、頼れるサービスがたくさんあります。 介護保険のサービス(訪問介護・デイサービス・ショートステイ) 訪問看護/介護タクシー/通院の付き添い代行 家事代行・宅配・作り置きサービス 子ども側では、病児保育・ファミリーサポート・送迎サービス・シッター 「これくらい自分でやらないと」と思う気持ちは、いったん脇に置きましょう。あなたにしかできないこと(そばにいる、話を聞く、決断する)に集中し、それ以外はどんどん手放す。これが、長く続けるコツです。 3. 罪悪感は、「外部サービス代」に変えていい とはいえ、多くの方が、ここでブレーキを踏みます。 「他人にお願いするなんて、親不孝では」 「お金で解決するようで、気が引ける」 その気持ち、とてもよく分かります。でも、あえて言わせてください。 お金で時間と安全を買うことは、家族みんなの笑顔を守るための、いちばん正しい投資です。 サービス代を惜しんで、あなたが疲れ果ててしまえば、介護も育児も、仕事も続きません。罪悪感は、サービス代に変えていい。それで家族が穏やかに過ごせるなら、そのお金は「浪費」ではなく「投資」です。 日々の節約はもちろん大切ですが、ここぞという場面で「時間を買う」判断ができるかどうか。これは、家計管理のいちばん大事な使いどころだと、私は思っています。 4. 倒れる前に、職場へSOSを そしてこれは、医師である自分自身への戒めでもあります。責任感が強い人ほど、限界まで一人で粘ってしまう。 でも、冷静に考えれば、**最大のリスクは「支える本人が倒れること」**です。あなたが倒れたら、介護も育児も仕事も、すべてが止まります。 当直の免除や軽減 時短勤務、外来中心への切り替え こうした相談は、わがままではありません。「長く働き続けるためのリスク管理」です。 職場に伝えるときは、「家庭の事情で」とぼかすより、具体的に伝えるほうが理解を得やすいです。 「子どもの急な発熱と、親の通院が重なり、月に数回、予定の変更をお願いするかもしれません」 介護は、いつか誰もが直面すること。具体的に伝えれば、意外と理解は得られます。 そして、もし——具体的に伝えても、まったく理解が得られない職場であれば。そのときは、転職活動をして、職場を変えるのも、れっきとした選択肢です。 少し厳しい言い方になりますが、「人が一人抜けても仕事が回るようにする」のは、本来、管理者の仕事です。その体制を作らずに、いざというとき現場が回らなくなる——そういう職場のあり方こそ、私は無責任だと思います。「自分がいないと回らない」と感じるのは、責任感の裏返しでもありますが、その体制ができていない職場に勤め続けることを選んでいるのも、また自分自身だ、ということは、心のどこかに置いておいてよいと思います。 「自分の代わりなんている」と思われるのは、しゃくかもしれません。でも、代わりがきく仕組みを整えておくことこそ、プロの責任です。あなたが背負い込むことで、かろうじて成り立っている職場なら、その関係を見直す勇気も、ときには必要です。 5. いちばん守るのは、「子どもと、自分の余裕」 最後に、優先順位の話です。 介護と育児がぶつかったとき、私は**「子ども」と「自分の心の余裕」を優先していい**と考えています。少し冷たく聞こえるかもしれませんが、理由があります。 子どもには、親であるあなたしかいません 一方、親の側は大人で、お金や制度で対応できる部分が多い そして何より、あなたに余裕がないと、その余裕のなさは、いちばん弱い子どもに向かってしまう。イライラして、つい強く当たってしまう——これは、誰にでも起こりうることです。 だからこそ、自分を追い込みすぎない。仕組みとお金と職場の協力を使い倒して、子どもと穏やかに過ごせる余白を、なんとか確保する。それが結局、家族みんなを守ることにつながります。 補足:これは、あくまで筆者の考えです ここまで「手放す」「頼る」を中心に書いてきましたが、最後に、一つだけ但し書きを。 これは、あくまで私個人の参考意見です。 自分自身の手で、親を看る——そのことに、お金や制度では決して代えられない、計り知れない意味があるのも、また事実です。そばで支えた時間は、あとから振り返ったときに、かけがえのないものになります。それを選ぶ方の気持ちも、私はよく分かります。 私は、個人的には「抱え込むデメリットのほうが大きい」と感じているので、この記事はこうした方向性で書いています。でも、それが唯一の正解ではありません。 大切なのは、「自分で看る」ことと「頼る」こと、その両方のメリットとデメリットを、家族みんながちゃんと分かったうえで選ぶこと。そのうえでの選択なら、どの方向性も、等しく尊重されるべきだと思います。 まとめ 自分が主治医をやめる(地域包括支援センター・ケアマネに早めに頼る) 自分にしかできないこと以外は、仕組みに手放す 罪悪感は、外部サービス代に変えていい(時間と安全を買う投資) 倒れる前に、職場へ具体的にSOSを いちばん守るのは、子どもと、自分の心の余裕 ダブルケアは、頑張りだけで乗り切るものではありません。上手に頼り、上手にお金を使い、上手に手放す。それは、逃げでも甘えでもなく、大切な人と自分を守るための、賢い戦略です。 いま、まさに真っただ中にいる方へ。どうか、一人で抱え込まないでください。 ...

July 1, 2026 · 1 min

【お金・生活】健康診断の「20歳のときの体重」欄——あれ、何のためにあるの?

健康診断の問診票に、**「20歳のときの体重を書いてください」**という欄——見たことはありませんか? 「今の体重ならわかるけど、20歳のころなんて、正確には覚えていない」「そもそも、なんで昔の体重を聞くの?」——そう思った方は、少なくないはずです。私も先日、自分の健診でこの欄を見て、あらためて「よくできた質問だな」と感じました。 実はあの欄、思いつきでも、興味本位でもありません。きちんとした医学的な理由があります。この記事で、やさしく解説します。 ※本記事は2026年7月時点の一般的な情報です。ご自身の健康については、健診結果をもとに医療機関にご相談ください。 1. あれは、国が定めた「正式な質問」です まず、あの欄は、健診担当者が勝手に付け足したものではありません。 特定健診(とくていけんしん)——いわゆる**「メタボ健診」**——で使われる、国(厚生労働省)が定めた「標準的な質問票」の正式な項目です。具体的には、こう聞かれています。 「20歳の時の体重から、10kg以上増加していますか?」 全国どこの特定健診でも使われる、根拠のある質問なのです。 2. なぜ「今の体重」ではなく「20歳から」なのか ここがいちばん大事なところです。 健康のリスクを見るとき、「今、太っているかどうか」だけでなく、「若い頃からどれだけ増えたか」が、とても重要だと分かってきたからです。 同じ体重の人でも、 20歳のときから、ほとんど変わっていない人 20歳のときから、15kg増えた人 では、体の中で起きていること(内臓脂肪の蓄積など)が違い、将来の病気のリスクも変わってくるのです。「増えた量」が、隠れたリスクを映し出してくれる——だから、昔の体重を聞くわけです。 3. データで見ると、どれくらい違うのか 「本当にそんなに違うの?」と思いますよね。日本人を対象にした研究で、はっきりした差が出ています。 20歳から10kg以上増えた人は、メタボリックシンドロームの発症リスクが約2倍(ハザード比 2.02) 20歳から5kg以上増えた人は、糖尿病の発症が男性で約2.6倍・女性で約2.6倍(国立がん研究センターの大規模研究) 糖尿病診療ガイドライン2024でも、「今の体型」だけでなく「20歳からの体重の増え方」が発症リスクと強く関わる、とされています ちなみに、「20歳から10kg以上増えた」に当てはまる人は、男性の約半分(49%)、女性の約3割(29%)。特に50代前半が最も多い、と報告されています。決して珍しいことではないのです。 4. 「はい」だった人は、どうすればいい? もし「20歳から10kg以上増えている」に当てはまっても、それだけで病気が確定するわけではありません。あくまで、「気をつけたほうがいいですよ」というサインです。過度に落ち込む必要はありません。 大切なのは、次の2つです。 これから、さらに大きく増やさないこと すでに増えている人は、少しでも戻す方向を意識すること(急な無理なダイエットではなく、食事と運動の習慣を、少しずつ) 体重は、健康のバロメーターのひとつ。「若い頃から10kg以上増えていないか」を、ときどき自分でチェックするだけでも、立派な予防になります。 そして、これは家計の話にもつながります。生活習慣病は、いったん薬が必要になると、長い付き合い(=長い出費)になりがちです。**予防は、いちばん確実で、いちばん安上がりな『投資』**とも言えます。 まとめ 健診の「20歳のときの体重」欄は、特定健診の正式な質問(国が定めたもの) 理由は、「今の体重」より「20歳からの増加量」が、将来の病気リスクをよく映すから 20歳から10kg以上増でメタボ約2倍、5kg以上増で糖尿病約2.6倍というデータがある 当てはまっても病気確定ではなく、「気をつけるサイン」。これ以上増やさない・少し戻す 予防は、いちばん安上がりな投資 何気ない問診票の一項目にも、こうしてちゃんと理由があります。次の健診では、あの欄を、**「自分の20年間の通信簿」**くらいの気持ちで、ちょっと前向きに見てみてください。 あわせて読みたい 将来、医療費の自己負担が増える"意外な理由"——高齢者が"若返っている"という話 『2人に1人ががん』の落とし穴——現役世代の本当のがんリスク

July 1, 2026 · 1 min

【お金・生活】医師なのに、お金が足りない——高収入がかえって家計を崩す3つの落とし穴

「勤務医、年収◯◯万円でも生活が苦しい」——そんな話を、医師どうしの会話やネットで見かけることがあります。 世間の感覚からすれば「そんなに稼いでいて、何が苦しいの?」と思われるかもしれません。私自身、正直に言えば、かつては「なぜかお金が残らない」ことに、あまり無頓着でした。 でも、家計をきちんと見るようになって分かったのは、医師という職業には、高収入だからこそハマりやすい「お金が足りなくなる落とし穴」がある、ということでした。 この記事は、誰かを責めるためのものではありません。**私自身が「気づいて、家計管理を始めた側」**として、同じように感じている方——医師に限らず、収入が上がってきた方——と一緒に考えるための記事です。 落とし穴は、大きく3つあります。 落とし穴①:収入が上がると、生活も静かに膨らむ いちばん大きいのが、これです。**「ライフスタイルインフレ」**とも呼ばれます。 手取りが増えると、人は無意識のうちに、 少しいい家に住み 少しいい車に乗り 少しいい店で食べ 子どもの習い事や塾を、少しずつ増やす ——と、生活水準を静かに引き上げていきます。一つひとつは「これくらいいいだろう」という小さな判断でも、積み重なると固定費が大きく膨らむ。 やっかいなのは、同じくらいの収入の人たちと付き合う機会が増えることです。周りの生活水準に、知らず知らず引っぱられていく。 そして怖いのは、支出を上げきったところで、収入が下がる瞬間が来ることです。医師で言えば、異動、当直の減少、働き方改革による外勤の制限、開業や転職。上げた生活は、そう簡単には下げられません。ここで家計が一気に苦しくなります。 落とし穴②:「見栄」と「借りやすさ」という二重の罠 医師には、「先生は裕福なはず」という社会的なイメージがついて回ります。これが、二つの意味で家計を圧迫します。 一つは、見栄。「医師なのに」という視線を意識して、高いものを選んでしまう。あるいは「これだけ働いているのだから、自分へのご褒美くらい」と、気が大きくなる。学会や付き合いの出費も、断りにくい。 もう一つ、こちらのほうが実は危険なのですが——**社会的信用が高いために、大きな借金が「簡単に組めてしまう」**ことです。 数千万円〜1億円近い住宅ローン 高級車のローン 金融機関は喜んで貸してくれます。でも、「借りられる額」と「無理なく返せる額」は別物です。信用があるがゆえに、身の丈を超えた買い物へのブレーキが効きにくい。ここは、収入が高い人ほど強く意識したいところです。 落とし穴③:稼いでいるのに「支援」から外れ、教育費は重い 意外と見落とされがちなのが、制度の壁です。 収入が一定を超えると、さまざまな行政サービスや給付に「所得制限」がかかり、使えないものが増えていきます。「稼いでいるのだから当然」と言われればそれまでですが、手取りの実感としては「税・社会保険料でごっそり引かれ、さらに支援も受けられない」となり、額面ほどの余裕を感じにくいのです。 そこに、教育費が乗ります。自分自身が受験を勝ち抜いてきた医師は、子の教育に力を入れる方が多い。私立、塾、習い事——気づけば、月々の教育費は相当な額になります。子どもの人数が多ければ、なおさらです。 「高収入なのに余裕がない」の正体は、この「支援の外・重い教育費・高い税負担」の合わせ技であることが少なくありません。 では、どうするか——「バランスシート」で現在地を知る 暗い話が続きましたが、対策はシンプルです。まず、自分の家計の「現在地」を数字で把握すること。これに尽きます。 私がやっているのは、家計簿アプリを使って、 毎月の収入と支出(何にいくら使っているか) 資産と負債の全体像(いわゆるバランスシート) を、ざっくりでいいので定点観測することです。細かく完璧にやる必要はありません。「だいたいの流れ」が見えるだけで、判断が変わります。 面白いもので、「見える化」しただけで、無駄な支出は自然と減っていきます。「今までどれだけ無頓着に使っていたんだ」と気づくからです。実際、収入が下がった時期のほうが、かえって資産が増えていく——そんな話も、決して珍しくありません。支出をコントロールできれば、収入の増減に振り回されなくなるのです。 医師にとってのもう一つの強みは、定年後も細く長く働けること。慌てて無理をしなくても、収支を整えて長く働ければ、家計はちゃんと回っていきます。 まとめ——「稼ぐ力」と「守る力」は別のスキル ①生活は収入とともに静かに膨らむ(ライフスタイルインフレ) ②見栄と「借りやすさ」が身の丈を超えさせる ③支援の外・重い教育費・高い税負担の合わせ技で、額面ほど余裕がない 高収入は、それだけでは家計の安心を保証してくれません。「稼ぐ力」と、それを「守る力(使い方・管理)」は、まったく別のスキルだからです。 そして、守る力は、才能ではなく習慣です。家計を数字で見る——たったそれだけの一歩から始められます。私自身、そこから景色が変わりました。 「医師なのにお金が足りない」は、恥ずかしいことでも、特別なことでもありません。気づいた今日から整えればいい。そう思っています。 あわせて読みたい 保険を大幅に見直した話——『安心』は高くつく、という話 目的が違えば、手段も違う——インデックス投資と高配当株の使い分け

July 1, 2026 · 1 min

【お金・生活】医師の働き方改革で「外勤が消えた」——若手医師の減収と、どう向き合うか

「働き方改革で、外勤(アルバイト)ができなくなって、収入がガクッと減った」——若手の先生から、こうした声を聞くことが増えました。 2024年4月から始まった医師の働き方改革(時間外労働の上限規制)。これは、医師の健康と医療の安全を守るための、大切な改革です。一方で、その運用のなかで、大学などが労働時間の管理を厳しくし、外勤(いわゆる"バイト")を制限・禁止する動きが広がりました。 結果として、大学の給与だけでは生活が苦しい——特に、住宅ローンを抱えた若手にとっては、切実な問題になっています。月20万円もの収入減、という話も、決して珍しくありません。 私自身は、地方でキャリアの後半を歩む一人の医師です。若い頃の下積みも、収入の不安定さも通ってきました。その立場から、この「減収」とどう向き合うかを、お金とキャリアの両面で整理してみます。 ※本記事は2026年7月時点の一般的な情報です。制度の詳細や個別の事情は、勤務先や専門家にご確認ください。 1. まず、「時間軸」でとらえる いちばん伝えたいのは、今の収入だけを見て、人生設計を固めないでほしいということです。 研修医・専攻医の時期は、いわば**「将来のための投資期間」**です。この時期の収入が低めなのは、つらいけれど、ずっと続くわけではありません。専門医を取り、経験を積めば、状況は確実に変わっていきます。 だからこそ、今は「この一点の収入」で家計を組み固めてしまわないこと。キャリアの段階によって収入は変わる——この前提を持っておくだけで、目の前の減収への受け止め方が変わります。 2. 「環境を変える」という選択肢 収入は、努力の量だけでなく、**「どこに身を置くか」**で大きく変わります。 大学病院や基幹病院は、労働時間の管理が厳格になりがち 一方で、市中病院には、柔軟な運用のところもある 「医局に属していないと、やりたいことができない」という時代では、もうありません。実際、退局して一般病院に移り、給与が大きく増えたという話も、周囲でよく聞きます。非常勤やスポット勤務を組み合わせて、大学時代と同等以上の収入を得ている医師もいます。 もちろん、専門性や人脈を得るために大学に残る意味は大きい。ただ、**「今の環境が唯一の道ではない」**と知っておくことは、心の余裕につながります。 ひとつの考え方として——「大学は、お金を払ってでも学ぶ場所」と割り切る。専門性と人脈をしっかり身につけて、それをあとから一般病院で"給料"として回収する。そう捉えると、下積み期間の見え方も少し変わります。 上司の「残れ」には、生存バイアスがあるかもしれない もう一つ、頭の片隅に置いておいてほしいことがあります。 いま大学に残って上司の立場にいる人は、多くの場合、「残ることのメリットが大きい」と判断できた人たちです。逆に、「デメリットのほうが大きい」と感じた人は、すでに大学を離れています。 つまり、大学に残っている人からの「ここにいたほうがいい」というアドバイスには、“残って良かった人"の声だけが集まりやすいという偏り——生存バイアス——がかかっている可能性があります。 もちろん、その助言が間違いというわけではありません。ただ、“その場を去った人の声は、その場には残っていない”。この構造を知っておくと、アドバイスを鵜呑みにせず、自分の状況に引きつけて判断することができます。 3. 家計とローンは、「早めの相談」が効く 収入が減ったとき、いちばんやってはいけないのは、一人で抱えて先延ばしにすることです。 住宅ローンがきついなら、早めに銀行へ相談する(返済条件の見直しに応じてもらえることがあります) 固定費を見直す(保険・通信・サブスクなど) 生活水準を、いまの収入に合わせて調整する 配偶者の就労、余裕があれば副業(ライティングなど) そして、少し耳の痛い話も、あえて書いておきます。収入が不安定になりうる時期に、身の丈を超えた大きなローンを組むのは、リスクが高いということです。 住宅ローンは、「借りられる額」ではなく「無理なく返せる額」で、できれば金利の変動に振り回されにくい形で組むのが安心です。もしこれから家を考える若手の先生がいたら、収入が上下する可能性を織り込んで判断してほしいと思います。 4. 制度の「中でできる工夫」もある 環境を変える前に、いまの職場のなかでできることもあります。 宿直・日直の許可がある当直であれば、休息時間の条件を満たすことを示して、外勤として申請できる場合がある 同僚と一緒に、医局長などを通じて、上長に相談してみる 「制度だから仕方ない」とあきらめる前に、運用の余地がないかを確認する。一人で動くより、同じ立場の仲間と声を合わせるほうが、話は進みやすいものです。 5. 構造を直視しつつ、「自分で決められること」に集中する 最後に、少し大きな視点の話を。 正直に言えば、公的な病院の多くは、医師の「やりがい」に支えられて(言い方を変えれば、やりがいに甘えて)成り立っている面があります。この構造は、法律や診療報酬といった大きな仕組みが変わらないかぎり、簡単には改善しないでしょう。見通しは、残念ながら厳しいと言わざるを得ません。 だからこそ、大事にしたい考え方があります。それは—— 自分の力が及ばないこと(法律・診療報酬・制度)に思い悩むより、自分の力が及ぶこと(どこで、どう働くか)に集中する 法律や診療報酬を、あなた一人の力で変えることはできません。そこに憤り、消耗するのは、エネルギーの使い方としてもったいない。 一方で、「自分がどこで働くかを、自分で選ぶ」ことは、あなた自身にできることです。制度の是非を嘆くより、自分でコントロールできる範囲に力を注ぐ——これは、しんどい状況を生き抜くための、現実的で強い姿勢だと思います。 まとめ 働き方改革による減収は、制度の過渡期に起きている構造的な問題。あなた個人のせいではありません 収入はキャリアの段階と環境で変わる。今の一点で人生設計を固めない **環境を変える(転職・非常勤)**のは、有力な選択肢 家計・ローンは早めに相談。そして身の丈を超えたローンは避ける 制度の中でできる工夫も探す 残った上司の助言には生存バイアスがかかりうる。鵜呑みにしない **自分で変えられないこと(制度)**より、**自分で決められること(働く場所)**に集中する 医師の働き方改革は、長い目で見れば、医師が健康に、長く働き続けるための改革です。過渡期のいまは、しわ寄せを感じる場面もあると思います。でも、収入の見通しは、動き方しだいで変えられます。どうか、目の前の一点だけで、将来を悲観しないでください。 あわせて読みたい 医師なのに、お金が足りない——高収入がかえって家計を崩す3つの落とし穴 保険を大幅に見直した話——『安心』は高くつく、という話

July 1, 2026 · 1 min

【お金・生活】将来、医療費の自己負担が増える"意外な理由"——高齢者が"若返っている"という話

「高齢者の医療費の自己負担が、これから増えるかもしれない」——そう聞くと、多くの方が思い浮かべる理由は、**「国の財政が苦しいから」**でしょう。 もちろん、それも大きな要因です。でも、最近の議論には、**もう一つの"意外な理由"**が加わってきています。それは—— 高齢者が、昔よりも「若返っている」から です。医師として、そしてお金の備えを考える一人として、これは知っておく価値のある話だと思うので、整理してみます。 ※本記事は2026年7月時点の公開情報(厚生労働省の統計や、社会保障をめぐる議論)をもとにした一般的な解説です。制度は議論の途中にあり、今後変わりえます。 1. そもそも、医療費は「高齢期」に集中している 前提として、押さえておきたい事実があります。 医療費は、人生の後半に大きく偏ってかかります。 日本人の生涯の医療費は、平均でおよそ2,500万円と推計されています そのうち、約半分は70歳以降にかかります 年齢で見ると、医療費全体の約6割が65歳以上に集中しています 若い頃はほとんど病院にかからなくても、年を重ねると、複数の病気を抱え、通院や入院が増えていく——現場で日々感じることでもあります。 高齢者の窓口負担が原則1割(現役並み所得の方などを除く)に抑えられてきたのは、「収入が減るから」だけでなく、**「医療費が多くかかる時期だから」**という理由もあったわけです。 2. “意外な理由”——健康寿命が延び、高齢者が若返っている ここからが本題です。 健康寿命——介護などを必要とせず、自立して日常生活を送れる期間——が、近年、着実に延びています。 2022年の健康寿命は、男性72.57歳・女性75.45歳 この十数年で、男女とも2歳前後、延びてきました つまり、同じ「80歳」でも、昔の80歳と今の80歳では、健康状態がかなり違うのです。イメージとしては、今の80代前半の方は、ひと昔前の70代後半くらいの元気さ、という感覚に近い。 すると、こういう議論が出てきます。 「高齢者が若返って、昔ほど医療がかからなくなっているのなら、負担割合を見直す余地があるのではないか」 「財政が苦しいから我慢して」ではなく、「元気になったのだから、応分の負担を」という理屈です。これが、冒頭で述べた"意外な理由"です。 3. 実際に、こんな動きがある(※議論段階です) 現に、社会保障をめぐる議論では、高齢者の窓口負担を引き上げる方向の提案が出ています。たとえば—— 「70歳以上も、原則3割負担にしては」という考え方 「75歳以上を2割負担に(一部は1割維持しつつ)、3割の対象も広げては」という提案 いずれもまだ決定ではなく、議論の途中です。ですから「こうなる」と断言することはできません。ただ、方向としては「自己負担が上がる側」に議論が進んでいる——これは、押さえておいて損はありません。 4. 私たちへの含意——「上がる前提」で備えておく ここで大事なのは、政治や制度の是非を論じることではありません。自分と家族の家計を、どう守るかです。 考えておきたいのは、こういうことです。 今の30代・40代が高齢者になる頃、「今と同じ自己負担割合」だとは、思わないほうが無難 医療は年々進歩し、できることが増えます。それは素晴らしいことですが、その分、費用もかかる。そして、支え手である現役世代は減っていく。将来、高齢期の医療費の自己負担が今より重くなる——この可能性は、ライフプランの「支出側」に、あらかじめ見込んでおくのが現実的です。 だからこそ、 公的保険(高額療養費制度など)という強い土台を正しく理解したうえで 将来の自己負担増も見込んで、自分でも少しずつ備えておく(つみたてNISAなどでの資産形成) ——という「公助を土台に、自助で上乗せ」の発想が効いてきます。過度に不安がる必要はありませんが、「医療費は将来もっとかかるかもしれない」を前提に置くだけで、備え方が変わります。 5. まとめ 医療費は高齢期に集中する(生涯医療費の約半分が70歳以降) 高齢者の自己負担引き上げ議論には、財政難だけでなく**「健康寿命が延び、高齢者が若返っている」**という新しい理由が加わってきた 実際に負担増の提案が出ている(ただし議論段階) 今の現役世代が高齢になる頃、自己負担は今より重い可能性→ライフプランに織り込み、公助を土台に自助で備える 健康寿命が延びるのは、本来とても喜ばしいことです。「元気で長生き」を実現しながら、そのための費用にも備える——その両方を、冷静に見ておきたいですね。 あわせて読みたい 7月末で使えなくなる健康保険証——あわてないための準備と『マイナ救急』の話 保険を大幅に見直した話——『安心』は高くつく、という話

July 1, 2026 · 1 min